2008年11月例会報告 日本で「読書教育」は可能か? 辻由美著『読書教育』(みすず書房)読書会

日本で「読書教育」は可能か?
辻由美著『読書教育』(みすず書房)読書会

2008年11月例会 2008.11.15 松本なんなん広場 会議室3 参加者5名

読書教育―フランスの活気ある現場から読書教育―フランスの活気ある現場から
(2008/04)
辻 由美

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 以前アメリカで学校司書をしているリーパー・すみ子さんのお話を聞いた時、彼女はヒスパニック系の移民の多い地域の小学校に勤務し、絵本を通じて英語力を身につけることに、力を注いでおられました。(『えほんで楽しむ英語の世界』参照)フランスでもアメリカでも、多民族が共に暮らすことと貧困の問題の中で、文盲やイレットリスム(フランス語で字は読めるが文章が読めない人のこと)の問題から派生する様々な課題を抱えています。それを解消する手段のひとつとして、「本を読んで語学力を身につける」ことを大事にする構図が似ていると思いました。
 さて、日本語が母語でない子どもたちも少しずつ増えている日本ですが、そうはいっても「日本語力」の問題の中心は、日本語を母語とする人たちの読み解く力と表現する力の低下にあるのが現状です。イレットリスムに近い問題だと思います。そんな日本の学校現場で、各学校で文学賞候補作を読み、2ヶ月間生徒同士がディスカッション(読書会)をし、自分たちの3冊を決める。そして、それは学校→地方→全国と進み、高校生ゴンクール賞となる。そんな『読書教育』にあるような試みが適切・可能かどうか、みなさんはどう考えられますか? 「読書」という言葉の定義が日本とフランスでは微妙に違う感じもしますが……。

○いまの日本の生徒・学生の読む力をどう見る?
 高校生の小論文指導を見て、文章を読み解く力は今ひとつだと感じる。また面接練習に接してみて、自分をことばで表し、語ることに不慣れである。また大学でも読む力の不足を感じているし、学生自身に本を読むことの大切さが理解されていないこともある。ケータイ小説の研究でも指摘されていたが、込み入った表現や、叙情性のある文章を理解する力に欠ける層が存在する。映像や活字を「読む」機会・訓練ができていない。学校を上がるごとに増えていく「図書館に来ない客層」への配慮・支援はどうするのか。なかなか厳しい。

○高校生ゴンクール賞などがもたらす変化
・生徒のコミュニケーション力の向上と社会性の獲得
 書店と学校とマスコミが協力し、イベントを盛り上げていく。①報道されることによって、自分たちが社会に与える影響力の大きさに気づかされる。自分たちの社会の中での立ち位置を実感する(社会性の認知)。②受賞作を選ぶ=投票の力を実感する。また自分の推薦する本をアピールすることで、伝える力が磨かれ、ディスカッション能力がつく。③各学校で1クラスしか参加できないという特別感から起きるモチベーションの高さ。④読書を社会化する。⑤お腹も満足→目の前のニンジンと、責任感・自尊心をくすぐることにより、生徒のやる気と底力が引き出され、2ヶ月間で12~15冊という本も読もうという気持ちになる(全部読めない生徒もいるが)。クロノス賞など他のコンクールでは、年齢を超えたコミュニケーションも必要となる。「作家と語る」催しにより、作品と自分との距離がグッと縮まり、理解が進む。
・司書教諭の企画力。他教科の教師、そして外部とのパートナーシップ
 フランスの今の司書教諭制度は、1989年から他教科の教員免許と同じように国家資格となった。配置は中・高校(幼稚園・小学校はアニメーター)。学校図書館や読書について専任の仕事をしている。この本では5つの行事をとおして、校内の職員間パートナーシップと、書店・NPOなど外部とのパートナーシップがいかに大事かを示している。司書教諭に求められる「読書力向上」の使命は強く、イベントや授業などかなりの企画力も要求されるが、それを支える外部の団体(NPO、読書センターなど)もすごい。

○現状の日本で何ができるか
 フランスの実践を読むと、「読書」が他の学びと地続きで学力の中に位置づけられている。「読書力」の低下は、そのまま他の学力の低下につながっているという認識である。日本サッカー協会では言語技術(ロジカル・コミュニケーション)を選手育成プログラムに導入した。(田嶋幸三著『「言語技術」が日本のサッカーを変える』光文社参照)
 日本では「文字・活字文化振興法」や改訂された学習指導要領にも指摘があるが、それが学校図書館や読書教育の充実にどうつながっていくのか? フランスのようにNPOや書店とのパートナーシップを結びにくいなら、現状の仕事の中から広げていくのが現実的ではないか。しかし現状でも、国語表現をはじめ様々な授業で、読解力、表現力、伝達力の向上を試みているが、生徒のモチベーションを保つことの困難さと、想像力をめぐらせることが苦手など、壁にぶつかっている(『下流志向』参照)。「調べさせられ学習」が「調べ学習」になるように、その行為に喜びとか楽しみを見いだし、達成感を抱かせる方法はないだろうか。ひとつには、さまざまな教科で読書量を増やす指導をしていくこともありだろう。
 もし日本で司書教諭が専任になったら、このような活動が可能かどうか。司書の中には「読書教育」に抵抗感や違和感を持つ人もいるかも。

で、やってみましょう!! 勝手に本屋大賞・図書館版
 司書で実践してみましょう。2009年本屋大賞は2009年1月20日(火)にノミネート作品発表され、4月6日(月)大賞作品が発表になります。予算のほとんどない時期ですが、なんとかやりくりをつけて、本を読み慣れない生徒も巻き込んで実践してみませんか? 詳細は後日。

 フランスの教育システムがよくわからない…、読書会って難しい…、と悪戦苦闘しながらも、話は多方面に広がりました。『図書館雑誌』2008.10月号にこの本の書評を書かれたTさんにもご参加いただきました。この試みが官からの指導ではなく、市民や教育現場から立ち上がってきたと言うことに「さすが、自力で革命を起こした国は違う」と思わされる読書会でした。
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